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ブログ倉庫1(2005/4-2014/10)

ミラノを出て2日目、フランクフルトからいきなりの夜行列車で着いた先はオールデンブルグ(Oldenburg)というドイツの北西の端の小さな町だった.
人気の無い深夜の駅舎を出てすぐのところにあるホテルにチェックイン、不安の中で悶々とした一夜を過ごす.
朝になってほとんどお客のいないホテルのレストランで朝食をすませ、さっそく劇場の場所を教えてもらって出かける.オーディションを前にしてあまり周りのよく見える状態ではなかったが今でも憶えているのは、小さいがとても小奇麗な街で、石畳と町並みの壁がとても清潔そうだった.
教えられた通りの道を行き街の中心を抜けると信号にぶつかりその先にはこんもりとした緑が広がっていた.中世風なお城のような建物が2,3点在し、美しい池の水と緑ががそれらを囲んでいた.
その中の一番大きくて真っ白なお城のような建物が劇場だと教えられてびっくり.「オールデンブルグ国立劇場」( Oldengurgishes StaatsTheater)といって町や市、州立でもなく国立の劇場なのだ.
後で知った事だがこのオールデンブルグという街は古くはあのトルストイの「戦争と平和」にも出てくるほどの有名な「侯国」、つまり君主がいた一つの国であって、劇場はその頃の君主の舘、まさにお城だったのだ.その後ずーっと後になってドイツに統合されて「ニーダーザクセン」州の主要な街となっていた.
劇場自身もしっかりした歴史を持っていて、現代オペラの初演がたくさん行われた場所として有名で、特にドイツの現代作曲家H.W.ヘンツェの有名なオペラの殆どはここで作られている.
そんな事とは知らない僕は、決められた時間の少し前に劇場のオフィスに着いた.小さな部屋を与えられそこで発声練習をしていると、ここで副指揮者をしていて、劇場で唯一イタリア語が話せるというイギリス人のピアニストが、僕の伴奏をしてくれるという事で顔を出してくれ打ち合せをする.まもなくして舞台に呼ばれて出てゆく.
舞台から客席を見るという機会は普通の人にはない事だろうが僕らにとってはこのアングルこそが劇場なのだが、出ていって目に飛び込んできたのは息を飲むような華麗な色彩だった.まさに先ほどの話ではないが、中世の君主の館の客間にでも通されたようなきらびやかさがあった.
しかし僕の知っている劇場に比べてなんと小さな空間だろうか.舞台の一番前を端から端まで歩いても15か20歩位しかないような、かわいい劇場だった.その舞台の前にはしっかりとオーケストラピット(オーケストラ用の穴)があり、舞台中央に立った僕のすぐ前にはプロンプターボックス(舞台上に空いた穴から顔を出して、指揮をしたり、セリフを叫んでくれたりする人の穴)までちゃんと備わっていた.
客席中央辺りに劇場支配人とその秘書らしき人、あとは他の指揮者とかの音楽スタッフなどが散らばって座っていた.オーディションの雰囲気は非常に和やかで、音楽監督がOKを出しているのだからという感じでお客様扱いで儀礼的に3曲ほど歌わせてもらった.<続く>

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