毎年恒例の大学の教室の合宿は今年も山中湖で8月5日〜7日に行われる。
最初は自分の山小屋中心に小淵沢でやっていた時期もあったが、親しいペンションと歌の練習に最適なスタジオ風な別荘を見つけてその後は富士山麓の河口湖で何年かやっていた。
しかし3年前、大学に入学してきたばかりのバリトンの学生の実家が山中湖でペンションをやっている事がわかり渡りに船ということではないが、さっそくその年からテニスやサッカー、ブラスバンドなど大学の体育会系の合宿のメッカ、山中湖は平野のペンションで合宿するようになった。最初の年、ブラスバンドや、コーラス、オーケストラなども使っていてスタジオもあるということで勇んで出かけていったのだが、いやはや大学生の合宿というのは朝から夜遅くまで練習、練習ばかりなのだ。我々も大学生の合宿であるが、歌の練習や、オペラの練習では朝から夜までなどできないので午前と午後、それに夕方少しという練習をする。しかし練習と練習の合間や、食事時やその前後などもかまわずに、ペンションの内から外から、そこらじゅうから、ひっきりなしにブラスバンドの分奏や、コーラスのパート練習などの音の洪水には、耳の休まりる暇などなくまさに発狂しそうになってしまった。
それで次の年からその辺をお願いしてスケジュール調整してもらったり、泊まるところを分けてもらったりして、今では非常に快適な合宿ができる様になっている。
合宿では一人一人の歌を見ることもだが、それよりもこういう時しかできないので実際に演技を入れたオペラの場面を作り上げるのを大きなテーマにしてやっている。元は有名な写真家のスタジオだったピアノの入った広い空間が、幸い朝からずっと使えるので、そこでオペラのステージを想定して「愛の二重唱」や「決闘の3重唱」、「夜会の場面」や「惜別の場面」などを手取り足取りレッスンしている。
この合宿での成果がきっかけになって秋からの発表会や試験などに向かって急激に成長して行く学生が多く出る。学生達も上達する大切なチャンスだと思っていて7月に入る前から与えられた曲の練習に入り、合宿の直前まで各々チームを組んで歌に演技にと夢中になって勉強してくれる。
歌は難しい。直立の姿勢で、朗々と情感たっぷりに、感性豊かな表現をするのは、技術面だけでは教え切れない。極論すれば少しのしっかりした基礎のテクニックと、後はその人の人間的な成熟、成長を待つしかないという見方も出来る。ただ他の楽器などの演奏技術に比べて歌が大きなアドバンテージを持っているのは、歌だけには「言葉」が付いているという事だ。「具体的な意味のある」言葉が付いている楽器と言ったらいいだろうか。
本来だと声を楽器に作りあげてゆくという技術の繰りかえしが中心になる若い大学生の年代の音楽技術の修行は、今のような自由・多様化の時代ではほとんどががまん出来なくて正常な進歩が出来ずにどうかなってしまうのであるが、その言葉の持つ「具体的な」ものをオペラなどの中の具象的な動きやドラマを通して、感情を伴ったよりストレートな形で表現させようとすることで、一気に声を出す技術と、感情を表現すると言う感性が、劇的に何人かの学生の中で繋がってゆくのだ。今年も何人がそうやって目覚めて「歌い手」になってゆくのだろうか楽しみだ。
ピアノの横に座って一日6〜8時間位のマラソンレッスンの合間には、富士山ミニ登山、早朝ハイキング、バーベキュー、花火大会、魚釣りなどもやるのだから先生も大変なのだ。体力の8月!

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7月
