Blog TenorCup

ブログ倉庫1(2005/4-2014/10)

bologna7220013今日はSOIでのレッスンはお休みで、学生たちはノドを休めて、遅い時間から出掛け、あこがれのボローニャ歌劇場のバックステージを見学し、さらには最近新設された「ボローニャ音楽博物館-Il Museo internazionale e biblioteca della musica di Bologna-」の見学をし、夕飯を早めに食べてその後、劇場にてSOIのオペラ公演を観るというスケジュールになった。学生達にとって、本物の劇場のバックステージという、近い将来の自分の仕事場はこういう機会にしっかり見てチェックしたいだろうし、市の他の博物館や劇場内に置かれていた所蔵物を一か所に集めて2004年に新設されたというボローニャ音楽博物館も内容豊富でぜひに見るべきものという事なので、図らずも収穫の多い一日になりそうだ。一方で私は授業・演習のないこの日を利用して、今回は通訳で手伝ってもらっている弟子のテノール、渡辺康君のプライベートなレッスンに付いてピアチェンツァ-Piacenza-まで行って来る事になった。彼の先生、テノール歌手のグラツィアーニ-Maurizio Graziani-氏にお会いして、レッスンを見学しながら、普段のお礼と彼の将来について話してくる事にし、夜にはボローニャに戻り劇場でみんなと合流する約束にした。久しぶりのイタリアでの車の運転は、始めこそぎこちなかったが、すぐに快適なドライブとなった。イタリア中部の穀倉地帯をミラノに向けてひたすら北に走り、ボローニャから高速道路で約2時間、ロンバルディア地方に入ってヴァイオリンで有名なクレモナ-Cremona-や、ヴェルディの生誕地ブッセート-Busseto-の近く、ピアチェンツァに着く。町の中心から徐々に離れて、いくつもの丘を越えて、一段と高く、遠くまで見渡せる丘陵の一画の、ヴィーコ・ヴァローネ-Vico Barone-という素晴らしいロケーションの村にグラツィアーニ先生のお宅はあった。ピアチェンツァの町からのバスは2、3時間に一本ほどしかないという不便なところにいつも通っている渡辺君に聞くと、彼のレッスン時間は、バスで着いた時から次のバスが来るまでだというのです。のんびりした環境での歌のレッスンに自分の留学時代を重ねて思いだした。グラツィアーニ氏は私と同年輩のリリコ・スピントのテノール歌手、私よりも少し重たいレパートリーで「トスカ-Tosca-」、「アンドレア・シェニエ-Andrea Chenier-」、「マノン・レスコー-Manon Lescaut-」などをつい最近までイタリアを中心に歌ってきた歌手で、とてもテノールらしい熱のこもった、それでいて丁寧なレッスンをしてくれていた。渡辺君を預けて3年目に入り、先生の方もそろそろ彼のキャリア作りの心配をし始めてくれていて、我々が帰ったすぐ後に、ここピアチェンツァで演奏会を開き、渡辺君にも出演させ、さらには8月末には知っている劇場マネージャーのもとでの渡辺君のオーディションをもセッティングしてくれているという話し、心から感謝し、安心してピアチェンツァを二人で後にした。ボローニャにとんぼ帰りで戻り、宿に戻り着替えをしてバスですぐ劇場へ。劇場の前でみんなと落ち合いいよいよボローニャ歌劇場へ。最近の大劇場に慣れた目には小ぶりな古いタイプのオペラ劇場に見えるが、堂々として非常に落ち着きのある雰囲気があり、入った瞬間から潤った空気を感じながら、一階プラテアの木製のフロアに並んだ客席の最前列に学生達と座り開演時間を待つ。今夜はSOIの本公演であるが、イタリア南部の小さな劇場や音楽祭などとの共同制作という事で、非常に意欲的なプログラム、生誕300年を迎えたペルゴレージの有名なインテルメッツォ-intermezzo-「奥様女中」と、オッフェンバッハ-J.Offenbach-のオペレッタ「小さなリンゴ-Pomme D’Api-」の組み合わせ、つまりペルゴレージのインテルメッツオからオッフェンバッハのコミックへという、イタリアン・ブッファとオペラコミーク(オペレッタ)を並べた大変洒落た一晩である。他の上演地との関係であろうか、舞台装置のサイズがこの本劇場にとっては少し寸足らずであった事は悔やまれたが、他の上演に関する全ての点において、非常に質の高い上演であった。歌手達から始まって指揮、演出だけでなく照明や舞台上の大道具スタッフなどから、ロビーでのチケット係、案内役まで全てを、SOIの学生たちで作り上げていて、劇場本来のスタッフはオーケストラ団員だけであると聞いて本当に驚いた。舞台上では選ばれた学生たちが非常にレベルの高い現代的な歌唱、演技を繰り広げ、特にオッフェンバッハのオペレッタでフランス語のセリフ・歌を自由に駆使して縦横無尽にオペレッタの世界を作り上げていたのには感嘆した。失礼ながら、イタリアオペラの研修所が、である…このへんに、後ろ向きに伝統的なイタリアオペラを伝承・継承することだけでなく、現在、未来のグローバルな劇場環境を見据えての先進的な歌手、劇場人の育成という姿勢が、この研修所の真の目指すところである事がわかる。夏休み中の学生公演ということもあり、客席が満席になってはいないが、そのような中でもこのような興行を続けていくというところに劇場、地域も含んでのプロダクションの骨太さが見えて頼もしい感じがした。夏時間とはいえ開演20:30で、終演したのが日付の変わる時間では、学生たちも観劇の余韻に浸る暇もなく終バスに急ぐことしかできなかった。

 

No Comments :(

Comments are closed.